散歩
緊急事態宣言の中、散歩をすることにした。さすがに昨春の緊急事態宣言の時ほどではないが、それでも人出は少ない。何を考えて歩こうか迷った末に、耳を澄ませて入ってくる音を分析しながら歩くことにした。
最初は車のエンジン音、自転車のタイヤ音が耳に入ってきた。それから、すれ違う人の靴音に気がついた。そうするうちに、人間に連れられている飼い犬の足音に耳を取られ始めた。空からはカラスの鳴き声も聞こえてきた。僕は歩き続けた。
感動的だったのは、マンホールの下から聞こえてくる水流音に気づいた瞬間だった。この音を聞いたのはおそらく45年ぶりくらい、もちろん都会に出てきてからは初めて聞く音だ。立ち止まってこの水流音に聞き入っていると、今度は風の音が聞こえてきた。風にも音があるのだとあらためて知った。僕は再び歩き出した。
目標の1時間を歩いた。最後に夕陽に彩られた自宅がぼんやり視界に入ってきた時、ようやく僕は自分の足音に気づいた。最も身近な音が、最も遅れて耳に入ってきた。これを灯台下暗しというのだろうか。それとも、地に足が着いていないのだろうか。
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